螺鈿蒔絵について

漆芸の分野は色々ありますが、ここで言う『螺鈿蒔絵』とは蒔絵の中の技法の一つです。正確な技法としては『研出蒔絵・螺鈿』となり、総称『蒔絵・螺鈿』とも言います。
蒔絵とはどういうものかを一言で申しますと、漆で文様を描き、金銀紛等を蒔き付け、乾燥・硬化後、磨きだすものと言えますが、その蒔絵の手法だけでも「平蒔絵」、「研出蒔絵」、「高蒔絵」、「肉合研出蒔絵」などが挙げられます。
研出蒔絵技法は、文様などの大きさによって変わりますが、一つが完成するまでに約一か月かかります。そのため何型か平行して作業に入ります。

それでは螺鈿とは何を指すのか「螺は貝、鈿はちりばめる」ことを意味します。主に夜光貝・アワビ貝・白蝶貝・黒蝶貝・メキシコ貝・ニュージーランド貝(パウア貝)などがあり、蒔絵箱(飾り箱・色紙箱など)には厚みのある貝を使用し、鼈甲などの和装小物には、貝の厚みの薄い(薄貝螺鈿)を使用します。貝も金と同様に非常に高価で、使用できる部分は僅かです。

べっ甲蒔絵工房で扱う螺鈿は、主にアワビ貝を使用します。0.1ミリ程に薄くしても、青色、赤色、金色と発色が良く、昔から日本人の簪、櫛などの髪飾りとして、現在も好まれています。青色の発色が非常に強いニュージーランド貝も製品によっては使用します。

蒔絵での薄貝螺鈿の技法は、小刀で切り出す方法、針先などで切り抜く方法、タガネなどで打ち抜く方法などがあり、その裏に色漆(白)など塗る、箔などを張るなどで表現方法は変わります。
「螺鈿蒔絵」としては、まず薄い貝を非常に細かい正方形などの形に切り出します。その切り出した貝の中から、花の中には赤い貝を、葉には青い貝(緑色の貝)を、と色の良い貝だけを選別し、漆(絵漆)の中に、竹の尖った先端で一つ一つ置いていき金紛を蒔きつける、非常に根気の要る作業となりますが、作品が完成しますと、貝の煌びやかさと金の光沢が相まって、非常に豪華絢爛なお品となります。
髪に挿す装身具だからこそ、色の綺麗な部分だけを使用するというこの手法は、明治に入ってから、江戸の蒔絵師によって開花しました。

研出蒔絵「螺鈿蒔絵」は蒔絵専用の本金紛(24k)等を多く使用します。名前の通り専用の研ぎ炭(駿河炭、呂色炭、朴炭)などで水をつけながら研ぎ出し、その後、胴擦り(油と砥粉を混合した布などで磨く)、さらに鹿の革、指の腹などに砥の粉をつけ仕上げ、完成となります。やや硬い炭で磨き(削り)あげる蒔絵で、完成すると、もっとも牢固な蒔絵と言えます。
また、「平蒔絵」とは金粉を磨きあげる際に、炭の粉、また胴擦り作業のみで完成となるものと言えますが、「研出蒔絵」「平蒔絵」ともに最大限、金の輝きを引き出すには、職人の技術が重要です。

現在では「平蒔絵」と「螺鈿」を組み合わせた技法、または螺鈿のみで完成するものが主流に成りつつあります。

当店における今後の取り組み

蒔絵師の技術で描いた平蒔絵の素晴らしいお品がある事をここに書き留めると共に、螺鈿蒔絵を継承し、時代のニーズに合わせ、平蒔絵技法も取り入れながら、更に精進して行きたいと考えます。